友はみなかげがえのない宝　おやじのひとりごと（３２）

６０代も後半に入ると昔の友だちが懐かしくなる。
竹馬の友も哀愁をともなって懐かしいが、多感な青春時代を同じ価値観をもって共に過ごし行動した職場の仲間は忘れがたい。
山を歩き、呑み歌い、恋愛を語り、政治を論じ、日本を揺り動かしたあの安保闘争にも身をおいて、一部の過激な行動には眉をひそめながらも明日の日本を案じ、時のたつのも忘れて語り明かしたこともある。

個人的な理由から、そんな仲間の心配を振り切って脱サラをした。
まるでそんな｢おやじ｣を追うように、まもなく脱サラをして同じ飲食業を開いた親友とは深い親交が続いたが、他の仲間とは、当然のこととして会う機会もすごく少なくなった。

そんななか、６年前に親友が病に倒れ急死した。
落ち込んでいる私を救ってくれたのは、急を聞いて駆けつけたかつての仲間たちだった。
非情なのかもしれないが、日々仕事に追われる毎日の暮らしの中で、親友が開けた大きな穴もやがて小さくなり、それにとって代わるようにその仲間たちとの交流が再開した。
それは、自分の勝手な想いだが｢俺がいなくても楽しくやるんだぞ・・・」と亡き親友が与えてくれたもののように思えたし、もし彼がその輪の中にいることができたらどんなに楽しさが増していただろうかとの無念さもこみあげる。

その仲間のなかでも特に、若い頃から｢ボンちゃん」と呼ばれ親しまれていた友がいつも中心になってめんどうをみてくれ、趣味で、とはいってもかなりいろいろな勉強をして本格的につくっているのだが、家庭菜園で収穫した正真正銘の有機栽培の野菜をよく届けに来てくれる。
もちろん我が家だけでなく、他の仲間のところにも届けながらみんなの意思の疎通をはかってくれるわけで、かけがえのない存在になっている。

仲間みんなが健康な毎日を過ごせていればいいのだが、残念ながら苛酷な闘病生活をよぎなくされている人もいる。
その彼を気遣う｢ボンちゃん｣は、誇りを持ってつくったとりたての健康野菜を届けては励まし続け、精神的にも元気を取り戻してもらえるようにさまざまなことを考え実行してくれる。

７月の初旬、自然のなかの｢ホタル観賞｣を計画してくれ、闘病生活を続けている友も充分に興味を示し楽しみにしてくれた。
車椅子も借りられ、準備万端整い当日を楽しみに待ったが、残念なことに、直前になって体調が悪化し、結果的には友を残したメンバーだけで行くことになった。

しかし当日、飯能の現地に近づくころになると強い雨が降りだし、「ホタル観賞｣はあきらめざるを得ない状況になってしまった。
それでも「雨でも葉っぱの裏にかくれて光っているはずだからそれだけでも見てみたい」と言うかみさんの希望や、「後日来るときのためにその場所を知っておきたい」というみんなのリクエストで、下見に２回も来ているボンちゃんだったが気持ちよく案内してくれた。

ところがである、川辺まで降りてみると、なんとその強い雨の中を、大きな木の葉陰を利用して雨をさけながら、かなりの数のホタルが点滅を繰り返しながら飛んでいるではないか！！
まったくあきらめていただけに、その現実に全員が心動かされていた。
雨の中でもあんな小さなホタルが飛ぶことをはじめて知ったし、それだけに、短い命のホタルが、その命の輝きを苛酷な環境の中でも精いっぱい表現している姿に、ことさら強い感動をおぼえた。

入院してしまった友を見舞いながら、ホタルのことは「また来年もあることだし・・・｣と話し合ったが、仲間として何の力にもなれない病の壁に無力さを感じてしまう。
せめてなにか、友を励ますことはできないだろうか？　いつも同じ考えだけで終わってしまう。

先日いつものようにボンちゃんが野菜をもってやってきてくれ、かみさんと三人で昔話に花を咲かせた。
そのなかで、２０代前半のころ雲取山の頂上直下の木の根元に、みんなでメッセージを書いてビンに詰めタイムカプセルとして埋めてきた話しにもおよんだ。
もちろんそのメッセージを読めるのは、一定期間を経た後に現地に行って掘り起こした者だけということになっている。
いまだに私は読む機会をつくれていないが、頻繁に山を登っていたボンちゃんもやはり読んでいない。

そのことにヒントを得たのかもしれないが素敵な考えを明かしてくれた。
「誰もが登れる簡単な山の北側の斜面にワインを埋めて、何年かかるかはわからないけど、友が元気を回復したときに掘り起こし、そのワインで快気祝いの乾杯をしようじゃないか！」
私もかみさんも即座に手を打って賛成した。

お互いにワインのことなど何も知らないまったくの素人だ。
ちゃんとした設備でないところにそんな状態で四季をとうして放置すれば、とんでもないワインに変化してしまうのかもしれない。
しかしそんなことはどうでも良い。
どんな味になっていようと、乾杯できたそのときには、何物にも勝るかけがえのない最高の味になっていることは間違いないのだから！！

目的の山はすでに決っている。
近じかボンちゃんが具体的な行動日程を知らせてくれるだろう。
「お遊び」と思われてしまうかもしれないがそれでもいい、埋めるワインに祈願をかけて・・・・・

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